第8章 距離感と興味【原作編(職場体験)】
久しぶりに目の前にいる父に驚きは隠せなかった。映像通話でしか見れなかった姿が目の前にあるのがなんだか不思議な感覚だった。
おばあちゃんと会話を終え、父と直接話す時間を設けられた。
「こうして直接会うのは久しぶりだな」
『…連絡してくれれば、迎えにいったのに、』
「急いで日本に帰ってきたんだ。お医者様と相談があってね。」
自分を考慮しての事だったのかもしれない。でもできれば教えてほしかったというのが本音だ。まあ父に限って今に始まったことではないが、
「大きくなったな。」
『そうかな?』
「ああ、映像通話でも感じたが、やはり時間の経過を実感するよ。」
『時間…そう、だね。』
父はこれから何を言おうとしているのだろう。
「‥‥そろそろお前に、話すべきなのかもな」
そう話す父は私以上に緊張しているようだった。
『話すべきと‥‥言うのは?』
「本当はもっと静かな場所で話す内容なんだが、父さんすぐ戻らないといけないんだ。しばらくまた戻ってこれそうにない。そうなると、話すタイミングを逃してしまいそうだったからね。」
軽く深呼吸をして話す内容は、
「父さんな、好きな人が出来たんだ。」
『‥‥…え?』
少し衝撃的だった。
突然何の話をしているんだろうと、頭の中が混乱していた。そんな私の様子に父は携帯を取り出して一つの写真を私に見せてくれた。
父と同じ年代ぐらいの綺麗な女性だった。
『きれいな…人、』
「職場で出会った人でな。かれこれ長年の付き合いになるんだ。仕事で難しい時によく手伝ってくれて‥‥惹かれていったんだ。」
その顔は本当にこの人を好きなんだと感じられる程のあたたかな目をしていた。
『おばあちゃんは知っているの?』
「ああ、教えるのが遅くてごめんな。」
『‥‥ごめん、って‥』
いずれそういう未来も訪れるかもしれないと、思っていたけど…‥こういう形で知る事になるとは思わなかった。
『…‥』
「ごめんな、お前にはいい気がしないだろう」
『え、』
「‥‥複雑なのはわかる。以前のアイツの事もあるし、受け入れてもらうには辛いのも分かる。でもどうしても自分の気持ちに嘘はつけたくなかったんだ。」
『‥‥お父、さん』
父は父なりに悩んでいたのが伝わってきて、言葉を一瞬見失ってしまった。