第7章 振り出しと関係【日常編】
※一条視点
あの体育祭後、轟くんと今後どう関わるか考えこんでいた際、その矢先に轟くん本人から電話が来たのだ。
最初は轟くん本人かと疑うぐらい動揺していたと思う。ただ本人は真剣に話があるという事だったので、それを断ることはできなかった。電話の雰囲気からして、なんだか落ち着いているような気がした。
まず、お母さんの話。まさか体育祭後すぐに、彼のお母さんに会いにいってたとは知らず、思わず緊張してしまった。
彼曰く、長年会えなかったお母さんと、きちんと向き合って話せたという事で、彼の抱えているものが少しでも解消できた気がして、自分の事のように涙が出そうだった。
轟くんは私の涙に反応したのか、以前体育祭での彼の態度に対して謝罪していた。滅多にない事に驚いてしまった。もちろん辛い部分はあったがそんな事よりも、轟くんが前に進めたのならそれでいいと思えた。
その後、一つの封筒を渡された。中にはポストカードみたいのが入っており、内容を確認してわかった。自分が昔、彼に送った手紙だという事に気づいた。
大切に保存してあったことの喜びと共に、懐かしさも感じられた。ただ、どうしてこれを渡したのかがよくわからなかった。
ー‥‥お前の目には俺はどう映る?
ーお前が言ってくれた【本物】のヒーローになれてるか?
一瞬何の話か戸惑ったが、昔、自分が轟くんに対して言ってた記憶が頭に思い浮かんでいた。彼が手に怪我をしている時だった気がする。その時、彼が少し不安そうだったので、元気づけるためにその言葉を言っていた。
改めて振り返ると恥ずかしい。
ヒーローの責任の重さも知らずにいた、子供ならではの言葉だ。できればなかった事にしてもらいたい。
しかし、轟くんはそう思っておらず、感謝の言葉を私に投げかけた。そう告げた時の表情は、なんだか幼い時の事を思い出すような顔で、思わずまた驚いてしまった。
轟くんと話が終わっての帰り道、私は少し考えがまとまらないまま道を歩いていた。
『‥‥今日は轟くんに謝られたり、ありがとうって言われたり‥‥驚いてばっかりだ、』
緑谷くんの影響もあると思うが、お母さんとの会話によってさらに心境の変化があったのだろう。終始話してる彼の表情は穏やかだった。
彼がいい方向に向かっている気がして安堵した。