第7章 振り出しと関係【日常編】
アイツと会ったのは、個性訓練が本格化し始めた頃、なりたい自分の目標に向かっているとはいえ、気持ちは焦りと疲れで心を占めていた。
そんな真っ最中に出会ったのが一条だった。偶然いじめられているところを助けたことをきっかけでお互い話すようになった。
クソ親父との地獄の訓練が続く中、たまたま自分の手傷が酷いのをアイツに見られた時があった。
ーくんれん?個性をつよくするの?
ー…うん、がんばって個性をつよくして、かっこいいヒーローになりたいから。
ーでも、まだ個性もうまくできないから、もっとがんばらないと‥
血に囚われることのない。なりたい自分になっていいと、母は言ってくれたが、それに伴う結果が見えてこない状況が続き、そもそもそんなヒーローになれるのだろうか、という不安を抱えながら、話した記憶がある。
でも、彼女はその時言ってくれた。
ーしょうとくんは立派なヒーローになってるよ!
ーだってわたしをたすけた時のしょうとくんは、ほんもののヒーローだったもん
自分としてはたまたま助けた感覚だったが、彼女はそんな自分を本物のヒーローと言ってくれた。
大層な言葉じゃなかったが、そう言われた時、自分の中にある不安が解き放たれたような気がした。その時最も望んでいた言葉を彼女が言ってくれたからだ。
小さい頃の俺は、その言葉を胸に、辛い訓練を耐えて前に進もうと誓った。自分の叶えたい夢のために、
しかし、
ー無個性の沙耶ちゃんに何がわかるの…ほっといてよ!
そんな大事なことを憎しみの感情と共に忘れ、離れてしまった。
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『‥‥お前が言ってくれたその言葉を思い出した。』
「そんな事、言ってた、ね…前すぎて一瞬驚いちゃったけど、はは、今にしてみれば無責任な言葉だったな…」
当の本人は余計な事を言ってしまったと謝っている。いつもの謙遜した態度で、
あんな形で離れてしまったのに、こうやって俺に関わってくれる。
『……でも、その言葉で救われた。』
お前は気づいていないんだろうな、どれだけその言葉が俺に力を与えてくれたのか、
『‥‥ありがとうな。』
今度こそ、前に進んでいく。お母さんとあの時言ってくれたお前の言葉に恥じない自分になるために、