第7章 振り出しと関係【日常編】
しばらくしてからその人物の声が聞こえた。
『…‥一条、』
「と、轟‥‥くん?」
半信半疑なのかかなり戸惑っているようだったが、お構いなしに話を続ける。
『悪い。今日時間空いてるか』
「え?‥‥え?!あ、空いてる、けど‥‥」
『会って話がしたい。』
会う場所や時間を決めて電話を切る。最後まで彼女の戸惑いが消える事はなかった。
一条沙耶。
彼女の印象はというと、度が過ぎるほど謙遜、不利な状況でも文句の一つも言わない。いわゆる「大人しい」印象だった。そして何事も不安と自信なさげだった。
最初はそんな彼女を理解できずにいたが、俺の過去を聞いて、まるで自分の事かのように泣くことや、陰ながらいじめられてる事について、一度も弱音を吐かず立ち振る舞っている姿を見た時に、彼女の根底にある「優しさ」と「強さ」を知ってからは、そこそこ話し合える仲にはなった。
あの記憶の少女と同じ人物なのか。正直まだ確証は持てない。それはこれからアイツと会話して確証を得たい。そしてきちんと清算していきたい。
「遅れてごめんなさい!」
そうこう考えているうちに本人が明らかに慌ててきた様子でこちらへ視線を向けていた。
「ご、ごめん。いきなりの呼び出しだったから…」
『いや、』
相変わらず遠慮がちに話す奴だなと思ったが、今日はより遠慮しているようだった。若干気になったが後にしておく。
「それで…話っていうのは、」
『ああ、その前にお前に伝えたい事がある』
彼女が椅子に座ると、改めて話を始めた。
『お母さんと会った』
「えっ、」
まずは昨日お母さんに会った事。俺の過去を知っている彼女には真っ先に教えるべきと考え、そのことを告げた。
「‥‥どう、だった?」
まるで自分の事のように緊張している彼女を前にすべてを話した。お母さんときちんと話せた事。俺の進む道を受け止め赦してくれた事を、
詳細を話し終えると、彼女の目が潤んでいる事に気づいた。
「‥‥よかったねっ、本当に‥‥」
声が震えながらそう答える彼女に、思わず何も言えなかった。自分以上に他人のために涙を浮かべていたからだ。
(…‥お人よしな奴だな、)
そう思う反面、体育祭の時、心配して駆けつけてくれた彼女を振り払った事を思い出し、後悔で心が締め付けられていた。