第3章 環境の変化【過去編】
『今日お父さん帰ってくるの?』
しばらく海外出張中だった父が家に帰ってくると聞いた。久しぶりの家族で集まれるということに喜びを感じた。
(そうだ…料理頑張らなきゃ)
とはいっても大層なものは作れないが、基本的なご飯やお味噌汁ぐらいなら先に準備できるだろう。そう思い真っ先に家に向かった。
「ただいま」
『お父さん、久しぶり』
久しぶりの父に抱擁をし、今までの出来事を話した。父は何も言わず柔らかな表情を浮かべながら頷いてくれた。そういった反応を見るのは何年ぶりだろうか
「母さんは?」
『もうすぐ帰ってくるって』
さすがに父の帰りということで早めに来てくれるらしい。私はエプロンを身に着けてキッチンに行こうとしていると、父は不思議そうにこちらを見つめていた。
『私、料理の準備するからちょっと待っててね。』
「‥‥え?」
『あ、そうか、お父さん、私が料理作ってるのを見るのは初めてだよね』
長年父と離れていたので、母と自分の事情がよく分かっていない部分があるのだろう。父は驚きを隠せない様子だった。
「‥‥いつもお前が作ってるのか?」
『うん、お母さん忙しいから、代わりに私がしてるんだ」
「‥‥」
素直にそう答えると、父の顔が見る見るうちに青白く変化しているのがわかった。どうしてだろうと思っていたら、ドアが開く音が聞こえて母の姿が見えた。
『あ、お母さんおかえ「お前何考えてるんだ?!」
母にあいさつする前に、父の怒鳴り声が聞こえ、思わず体が萎縮してしまった。
「まだ、小学生だぞ?!いくら仕事が忙しいからって子供に料理作らせるなんてどういう教育してるんだ?!」
「開始早々怒鳴るのやめてくれないかしら」
怒りと冷たい視線の二つが合わさると、張り詰めた空気に包まれているが分かり、思わず二人の様子を伺いながら見回す。
「私は私の教育方針があるの。仕事だけの貴方にとやかく言われる筋合いはないわよ!」
「教育は確かにお前に任せるって言ったが、明らかに放棄しているだろ?!」
「何も知らないくせに!無個性のこの子を教育する事がどれだけ大変だと思ってるの!?」
『あ…』
どんどん話がエスカレートしていく様子に不安が耐えきれくなり、いつの間にか自分の部屋に逃げてしまった。
『お父さん…、お母さん…』
うずくまりながら涙をこらえていた。