第3章 環境の変化【過去編】
あれ以降、私は後悔に苛まれていた。ちゃんと謝りたいと切に願っていたが、神様は時間の余裕を与えてはくれなかった。幼稚園の先生から、すでに退園準備を整えて、彼がもういなくなったことを聞かされた。
『‥‥そんな』
分け隔てなく接してくれた彼だったのに、自分は彼を傷つけてしまった。その事実だけが静かに残された。
時は立ち、
彼に謝れなかったまま、小学生になった私は、以前より遊ぶことはなくなった。父は優しく接してくれたが、母の冷たい態度は変わらず、意図せずとも家族の仲に亀裂が走っているを実感した。
「……ただいま」
『あ、おかえりなさい、あのね、こないだのテストなんだけど…』
「……後にしてくれない?、ご飯は?」
『あ、あるよ』
親は共働きで、父は海外出張中。母も遅くまで仕事しているので、家にいることは少ない。それはまだよかった。母はその少ない時間すら会話を一切することを拒んでいた。
(……お母さん)
原因は変わらない。無個性に対しての失望だ。せめて「無個性」以外の部分で母に認めてもらおうと一生懸命努力した。勉強や家事だってそうだ。ただ母が笑っている姿がみたい。その一心だった。
(今日はテスト満点だった)
少しはいい反応があったら嬉しいな。そういう気持ちで、食事後の母に今回のテストの結果を見せた。しかし、母は結果を見ても特に反応はなく、呆れの表情を浮かべていた。
「……だから何?」
『え?』
「個性もないアンタが頑張ったところでどうしようもないでしょ?』
どうしようもない、その言葉にしばらく唖然としている私を他所に、先程食べた料理について語っていた。
「それよりも、もう少し料理頑張ったらどうなの?味付け濃すぎるでしょ」
『‥‥そう、だね』
厳しい言葉が響く。いや、違う。もっと頑張れば認めてくれる。厳しいのは自分の努力が足りないからだ。そう思ってその言葉も飲み込んだ。
「もういい?明日も早いの」
『あ、うん…お休みなさい』
そう思い込むことで自分の身を守っていることも知らずに