【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
驚くのも無理はない。当の本人である私だってびっくりしてる。自分の思考を無視して瞳から次々と溢れてくる涙に私さえも驚いてる。
今思い返せば、高校生活が始まってから初めて学校で泣いたかもしれない。お母さんが『涙は女の武器だからいざという時だけ使いなさい』と気取りながら口酸っぱく言われてたのに。
なんだか後から悔しくなって慌てて涙を裾で拭うとおっかなくない方の先輩がどこからかハンカチよりひと回り大きい〝A〟とイニシャルの入ったタオルを取り出し「擦ったらあかんよ」と言いながら手渡した。
「気にせんで使い。……あとで冷やすときも使うからどうせ濡れるで」という北先輩のフォローもあってかお言葉に甘えて私は目元にタオルを押し付けた。
「サムがあんなことしたからやろ」
「はァ? 実際殴ったのはツムやろ。ホンマ節穴やな」
「なんやと…ッ!!」
すると後ろでコソコソ話していた二人の会話に再び油が降り注ぎ始め、侑くんが治くんの言葉にカッとなり声を荒らげた瞬間、新たに始まりそうな二人の喧嘩を吹き飛ばすほどの先輩の怒鳴り声が放課後、静かに響いたのはここにいる五人しか知らない――。