【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
「…誰に、やられたん?」
さっきの温厚な雰囲気とは裏腹に、明らかに先ほどよりも低い声でそう聞かれ思わずひぇ、と情けない声が口からこぼれ落ちた。
これは正直に言うのが正解か、それとも二人を庇って隠蔽するべきか。どちらが一体穏便に済ませられるだろうか。目を泳がせながら頭をフル回転させてどうにか言い訳を考える。
「…あー、おわったわ…………」
その侑くんの呟きにバッ、と背後を振り向く先輩。そう言えばさっきまで馬乗りになってたのにいつの間にか喧嘩がなかったかのように踊り場の壁際にちまっと整列し立っている二人。先輩が振り向いた途端侑くんは顔を逸らし、治くんは「コイツが言いました」と言わんばかりに小さく侑くんを指差しているがそれに気づいた侑くんが小さく舌打ちをして治くんを睨み返す。
「おい」と再び低い声が通ると二人はそれぞれ外側に視線を逸らし背筋を異様に伸ばしてただじっと立っているだけでどちらも先輩と明らかに目を合わせようとはしない。
「それにしても、それ大丈夫なん? 痣とかできたりせんかな?」
「……それもそうやな」
もう一人の黒髪の先輩の言葉におっかない方の先輩はそれを聞いて頷いた。学校では係や委員会、部活も所属してないこともあってか先輩との会話が少し新鮮に感じる。
「そういえば突然話しかけてごめんな。俺は三年の北信介、二人はバレー部の後輩なんや。ホンマにごめんなうちのやつが。めっちゃ赤くなっとるな。………痛いか? 保健室一緒に行くか?」
そう優しく問いかけながら私の頬に触れたおっかない先輩の手はひんやりと冷たい。きっと私の毎日がキラキラしたヒロインみたいな女の子だったら、恋に落ちてハッピーエンドルートに行けたかもしれない。
嗚呼、この先輩はきっと純粋にすっごく優しい人だから知らないんだろうな。女の子っていう生き物は、どんなヒロインであろうがモブであろうが、頑張って平気を装って我慢してる時に変に心配されたり慰められるのに弱いってこと――。
途端、周りがぎょっと私を見ながら驚愕した。