【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
反射的に目は瞑ってたけど、それと同時に避けたはずなんだけど、それでも払われた侑くんの拳が私の頬に思いっきり当たったらしい。さっきまでの喧嘩が嘘みたいにシーンとその場が静まり返り、二人が尻もちをついた私を見ながら硬直している。これは一応〝喧嘩は止められた〟ということでいいんだろうか…?
私は熱を持つ頬にそっと手を当てた。
殴られた……というか、治くんを殴ろうとしていた侑くんの拳が偶然当たった。と言った方が正しい。相手も「やってしまった」という顔をしているし、どっちにしろ先に飛び出して手を出したのは私だから私が悪い。今この状況で自業自得という言葉を使わなくてどこで使うのだというくらい。
すると下の階段から足音と話し声がだんだんと聞こえてくる。
「信介ここや、ここで喧嘩してるって……ってあれ?」
「なんや…仲直りしたんか?」
階段を上がって来たのは見慣れない上履きとワインレッドのジャージを着た三年生が二人やって来る。知らないはずがない。あれは我が稲荷崎高等学校春高常連であるバレー部のジャージだ。つまりあの二人は治くんと侑くん達の先輩。
なんだ、私がいなくても大丈夫だったんだ。と、心のどこかでなぜがほっとしてしまった自分が恥ずかしく感じた。すると〝信介〟と呼ばれていた先輩と目が合った。その先輩は私を見るや否やキョトンとして、まるで今ここで何が起きていたのか脳内で処理するように立ち尽くすと静かに口を開いた。
「………自分、どないしたん」
どうやら先輩達でも理解不能な現場のようだ。
馬乗りのまま固まる二人、ここまでだったらきっとあの二人の先輩なら状況が理解できるに違いない。けれどそこに今日は知らない女がひとり。その私に今の状況を冷静に理解しようと真っ先に私の元にやってきた先輩は私の目の前でしゃがみこむと顔を不思議そうに覗き込んだ。
突然、伸びて来た手は未だ頬に手を当てていた私の手首を掴んだ。
「えらい赤くなっとるな、それにちょっと蚯蚓腫れも出来てるで」
その先輩にされるがまま手を退かすと片方だけ明らかに赤くなった頬と爪が引っ掛かったのかその上には軽く蚯蚓腫れができてしまっていたらしい。