【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第3章 3分の1でも選ぶとは限らない
駆け寄ると何か悪いことをしてしまったかのような水田さんの表情に俺はすかさず「ちゃうちゃう、何もあらへんよ。俺の自主練付き合わん?って聞こうとしただけ」と問いかけた。ギョッとした顔をして動揺しながら自分の顔を指差す水田さんに「お前以外にだれがおんねん」と突っ込む。
「前...」
「前?」
「そう、バイトで、」
「パン屋?」
「一年生の女の子」
まるで俺の記憶を引き出そうとしているかのように、謎解きみたいに単語を転がしてくる。俺、なんか言っとったか? あかん。俺の知らんとこで約束とかしてたらどんなんしよ。とりあえず視線を外して時間を稼いだ。
「まあ、気にしてないなら全然......」
「忘れてへんで! ただ今思い出してる途中やからちょい待ち......」
水田さんの目の前に手の平を出して、時を止める。パン屋やろ? めっちゃ覚えてるで。忘れるわけないやん。覚えてるけど、別に約束なんてしとらんよな? パラパラとコマ送りのように記憶を捲る。前。バイト。パン屋。女の子。俺が言ったこと............?
〝「俺のバレーの邪魔する女は嫌いや」〟
思い出した。あの女振った時に俺が言った言葉や。もしかしてあれ覚えてたん? 別にあれは水田さんに言った訳やないのに。
「なんや、俺に嫌われたくないん?」
「だって侑くん、怒ると怖そう」
「そんなことあらへんよ~」
「うそ、絶対嘘!」
「あれとこれは別に決まってるやろ。それに今はむっちゃ気分ええから特別扱いしたるわ」
そんなことよりはよ来てや、俺の貴重な昼休み終わっちゃうで~、とコートに戻りながら手招きすると、ゆっくりとした足取りで水田さんもコートに入って来る。歩く先に落ちていたボールを拾い上げて水田さんに渡した。
「ここからネットのここに落ちるようにボール投げんねん。いつも弟にやっとるなら簡単やろ?」
そう実践して投げてみれば水田さんは頷きながらボールとボールカゴを受け取った。