【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第3章 3分の1でも選ぶとは限らない
誰もいない昼間の体育館、自分のシューズが擦れる音とボールの音だけが響く空間。バレーの事しか考えられないこの精神が高ぶる瞬間が俺は好きや。
一分一秒、間違いなく俺の為だけに、体育館の時計だけが見えない成長を形に刻んでくれる。俺の耳に聞こえる為だけに鳴る音。拾う五感。キュッと、上履きが擦れる音が響く。―――これは、俺でも治でも、角名でもない。音のした方へ反射的に振り返ると、申し訳なさそうに肩を縮こませてる水田さんがおった。受け止めることを放棄したボールが体育館の床に落ちて跳ね返る。それに今度はビクッと肩を震わせた。
「あ、ごめん.........別に邪魔するとかじゃなくて......」
いつもの雰囲気よりも、たどたどしい様子やった。
〝「これ以上余計なことに巻き込まれたくないんです」〟
水田さんに会うたび、思い出す。あの言葉とは裏腹に変に沈んだ顔。何言ってんねん。巻き込まれたくないちゃうやん、忘れたいって顔しとる。顔に毎回書いてあんねん。ヘタクソな嘘付きおって、バレバレや。
「用あって来たんやろ」
それに身に覚えがある。指差したのは、この前水田さんの弟に貸した俺のタオルや。
「そう、そう! 弟に、『姉ちゃんこれ、宮侑に渡しといて』って」
それに、俺をフルネームで呼ぶのは水田さんの弟だけや。水田さんは大げさに俺に見えるように目の前にバッとタオルを突き出した。ここに置きますよ、と言わんばかりに少しオーバーな腕の回し方をしながら「じゃ、ここに置いておくね。邪魔してごめん」とタオルをそっと壁際の椅子に置いてそそくさと帰ろうとする様子に慌ててちょい待ち、と呼び止め目の前に張られていたネットをくぐった。