【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
もみ合いになっていた2人のシルエットが大きく動いたことに私は不意に視線を向けると侑くんが治くんに馬乗りになっている。そして、胸ぐらを掴んだ瞬間、侑くんの右手の拳が上がった。それを見た途端、血の気が引いた。嫌な予感がした。本能的な勘だった。
スマートフォンをその場に放り投げて、私は飛び出した。
〝助けようとした〟…と言うと、どうも言葉が綺麗すぎて見合わない。いい人ぶってるわけでもない。だって、彼らと関わりたくないのは事実なんだから。
それでも、無意識だった。さっきまでつっかえて動かなかった足が途端に動き出した。
彼らと関わっていはいけない。
誰よりも平和で普通な高校生活を送る。青春じゃなくて結構、ヒロインじゃなくて結構、平凡上等、どんとこいだ。私の決めたことなのに、ルールなのに。それなのに。私の脳が、体が、体中の細胞が、それはダメだと。今まであったどんなことよりも、今まで以上に、強く言っていた気がした。
大丈夫、こんなことで大事おおごとになったりなんてしない。私はたまたま通りかかった生徒。同級生の喧嘩を見つけて注意に入るだけ。
だって、殴られるのは痛いでしょう? あとから先生に見つかって、怒られるのも嫌でしょう? だったら、その前に私が注意して収まってくれれば何の問題もない。
どこか小さいヒビが広がっていくのを抑えるように言葉を積み重ねて自分に言い聞かせた。でも、ただ本当は――ただ、間に合ってほしいと、この時。……それだけしか思っていなかった。
「待って…ッ!!」
高校生活で、こんなに大きな声を出したのは初めてだった。