【HQ】喧 嘩 止 め た ら 殴 ら れ た !
第1章 喧嘩止めたら殴られた。
「ああ、これマスクリアっていうの」
「ははは、そのまんまやな。それに初めて見たわ、笑ったところ」
侑くんの言葉に私は思わずえっ、と声が出てしまう。そうか、侑くんは治くんと角名くんとは違って別クラスだからあんまり会わないのか。
………全然、普段は皆に合わせて笑ってるつもりなんだけどな。だってひとりだけ暗かったり笑ってなかったりしてたら浮くじゃん。え、もしかして私実は表情筋死んでる?
「笑った方がええで、そんなら毎日楽しくなる。それに、笑った方が可愛ええよ」
「あ、そうですか」
「あれ、そこはキュンとする所やろ」
「はいはい、キュンキュン」
「そういうことちゃうわ! …まあ、最初に会った時があれやったしな」
「あれは、…………勝手に涙が出るほど痛かったんです」
「でも顔の痣消えてほんまよかった。あ、これ四つ買うわ」
「わかった。全部で四百円ね」
お店に備えてある、トレーとトングを手に取って塩パンを四つ取るとカウンターへ持って行きいつものように手際よく包んで会計を済ませていく。するとバックヤードで集計を行っていたであろう店長が「そろそろあがっていいよ、お疲れ様。今日余ると思うから結構いっぱい持っててくれると助かるな!」と陽気に声をかけて来る。私もそれに「はい、ありがとうございます」と軽く頭を下げた。
「なんや、バイト終わりなん?」
「うん、シフト十九時までだから」
「そんならもう暗いし送ってくわ」
「え、嫌だ」
「なんでや! 暗いし女の子一人危ないやろ!」
「いつも普通に帰ってるし」
「………ええから、外で待っとるで」
そう言って侑くんは問答無用にカウンターに置いた塩パンの入った林檎の木イラストが描かれたお店のマークが入った紙袋を乱暴に持っていくとお店を出て行ってしまった。
そしてバイトを終え、裏口から出てお店の前をチラッと覗き込み確認すれば電柱には侑くんが背を預けてスマホをいじって私を待っていた。それを良いことに声もかけず速足で前を通り過ぎようとしたらまあ案の定見つかったよね。