第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
「ロボットなんですよね」
「違います」
もう自分の中ではロボット化しつつある大男の腕を離す。確かに熱や脈が指先を通じて感じられたが、ロドスの技術を以ってしてみれば造作もなさそうだ。
とはいえ、助けてくれたのは事実。そうでなければ今頃貧弱な自分は潰されて骨の一本や二本折れていたかもしれない。
「…あ、ありがとうございました…」
「貴方を守るのが任務ですから」
「アッハイ…」
少女漫画などでよく見るトキメク台詞だが、この人に言われると感情が皆無であるため、そんなことは無かった。酷く虚しいだけだ。
小さく息を吐いた私は、視線を落として足元に散らばった資料を回収しようと膝を地面に着いた。
そこでようやくダンボールの所有者がひょっこりと顔を出し始めた。
若い白衣を着た女性だった。
「ごめんなさいいいい!怪我していませんかー!?」
「大丈夫ですよ」
「あぁあ…よかっ…!」
その女性は、イグゼキュターを見るなりギョッとして赤面した顔を逸らしたのを見逃さなかった。
顔が良いからだろうが、それ以上にこの男の性格は厄介なモノがある。
「…見てないで手伝って欲しいです」
ちょい、と黒色のズボンを掴んで引く。と、本当にロボットのように指示されて初めて動き出し、隣で散らばった書類を集め始めた。
渋々という感じはない。ただ、命令されていないから護衛という任務を続行しているだけ。その他は興味ない、といった振る舞いだった。
「あぁあ大丈夫ですよ!お手を煩わせるなんてそんな…!」
女性は急に性別らしい立ち振る舞いを見せ始める。奥手そうに見えて案外積極的な女性だ。
「(この人に甘えても良いこと一つもなさそうだけども)」
恋愛面なんて興味なさそう、というどころか初めて聞いた、と言い出しそうな雰囲気だ。
確かに先程助けてもらった時にドキ、としたかしてないかと言えばした、と即答できる。だがあれは驚いた、というのが正しいのだろう。…真意はわからないが。
「拾いました。どうぞ」
「いやどうぞって!明らかに女性に持たせちゃ駄目な量だわそれ!?」
イグゼキュターは、自分の顔を隠す程に積まれた資料をそのまま女性に渡そうとするので止めておいた。されども女性は嬉しそうに笑ってみせる。
…何してもかっこいいんだろうな。