第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
ドクターとの話が終わり、執務室を出た私たちはロドスの廊下を歩いていた。そこに一切の会話は無い。
「(気まずい…)」
彼は私の一歩後ろを歩いてきており、一寸の狂いもない歩みを見せている。
だがその光景は、すれ違うオペレーターたちからは異様な光景に見えるのだろう。度々振り返り、うわぁ…という苦笑いで見つめられる。
護衛、というよりは護送される囚人のような気分だ。この先こんな監視されていてやってられるのか、と不安で溜息を吐きながら目を閉じた時だった。
「うわっとっと、おとととととと!!?」
「あ、え?」
素っ頓狂な声が前からやって来た、と思い前を向いたが最後。目の前に天井ほどに積まれた茶色いダンボールが襲い掛かって来た。
咄嗟に目を見開いては、次にぎゅ、と瞑ったがもう回避するには遅すぎた。
ドタドタという重苦しい音が廊下に響いた。…だが、その重い音とは相反して体に痛みは無い。あるのは鼻を擽るお菓子のような甘い匂いだけだった。
「お怪我は?」
「…イグゼ、キュターさん」
どうやら庇われたらしい。バサバサと風で舞う資料を背景に水色の目がこちらをじっと見ていた。
右手で倒れて来たダンボールを受け、左手で私を引き寄せた、というところか。
「私は大丈夫ですけど、う、腕!!腕大丈夫なんですか!?」
資料がこれほど空中に舞うのだ。ダンボールの中には相当詰められていたに違いない。それを何箱も片腕だけで防御したのだ。私の世界では腕の捻挫…最悪の場合骨折もあり得る事態だった。
だが、私のその問いに、相変わらず顔色一つ変えずに彼はけろりと言ってみせた。
「問題ありません」
私を離しながら、右腕を見る彼は本当に何もないと言ったように手を拳に変えたり、開いたりを繰り返している。
その言葉が信じられなくて、自分の目でも見てみるが、赤くなっているどころか白い肌がそこにあるだけで、傷一つない。
そんな時不意に脳裏を過ぎったのは、子供の頃に見た海外の映画で、溶鉱炉に落ち、親指を立てて沈んでいくあの有名なワンシーンだった。