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【アクナイ】滑稽でも君が好き【短編】

第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】



「エンカク、さ…」

「気を抜くな。巣に帰るまでそこは戦場だと思え」


そう言った彼は、さくらの首から手を離したが、周囲を警戒するように、常に左手は得物から離さない。
その姿を見て、前衛とは何かを語っているようにも見えた。


「なん、で…ここに…?」

「お前のような奴が前衛だとは信じられんくてな。真意を確かめに来たというわけだ」


エンカクは、さくらの前髪を掻き分け額を見る。傷は医療オペレーターに治療されたのか、跡形もなかった。
その優しい手つきに、くしゃりとさくらの顔が歪む。

既に雨に濡れて、乾いた所などどこにもないその黒い服に飛び込んだ。


「…エンカクさん…!」

「!…俺がさっき言った事をすぐ忘れるような………もういい」


背中に回って震えている腕に、罵倒する言葉を引っ込めた。

最初は敵に扮して実力を試すだけのはずだった。思った通り、斬りかかって来た動きこそ新兵のそれであったが、彼女の目は殺意あるもので、エンカクの闘争心を掻き立てた。
だが、それが味方と分かるや否や、この体たらくであるが故に気が抜けた。今さっき気を抜くな、と言った本人が、だ。


「しっかりしろ。まだ敵が潜んでいるんだろう」

「いえ、この一帯はもう殲滅済みで―――」


さくらが否定した時だった。ザーザーとノイズを発していただけのインカムが声を発し始めた。



「<<注意。敵の増援を確認。数にして20>>」

「は…?」


先程は11人だった。その数はさくらが今まで戦ってきた中で最多となる人数だった。
それを大きく凌駕する数のレユニオンが攻めてくるという。半ば自動的に体が震えた。

その絶望の最中で、ノイズは打って変わってドクターの声を発し始めた。


「<<さくら、退却だ!お前が捌ききれる量ではな―――>>」

「あ!ちょ、エンカクさん!?」


突然さくらの耳からインカムを取り上げ、地面に放るとグシャリと踏みつぶしてしまった。

思わず掴みかかり、退却ルートを聞きそびれてしまったではないかと抗議をしようと思った。が、口を噤んだ。

エンカクの表情が笑みに染まり、血に飢えた獣のように敵が来るであろう方角を見据えていたからだ。


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