第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
さくらの耳につけられたインカムに、たった今ノイズ音が何度も走り、攻撃の手を緩めてそれに手を当てる。
「…ドクター?」
トントン、と人差し指で叩いてみるものの、それはただ雨のようなノイズを出すだけだ。
その理由が、自分の放つ電流と雨に濡れたせいだと分かり、すぐに手を止め、再び攻撃に専念することにした。
自分に与えられた任務は、この道路を攻めてくるレユニオンの重装兵を足止め、もしくは殲滅すること。と、内容を頭で復唱しながら、斃れた兵の数を数えていく。
「(5、6…)」
敵の数を数えるのは、先行部隊が索敵した人数と照らし合わせるためだ。少なかったらどこかに潜んでいる危険があるため戦闘終了とは言えない。これも任務で学んだことだった。
「(8、9…)」
ここを攻めてくる敵の数は11体。丁寧に地面に沈む敵を数えていく。
しかしそれは同時に、同じ人間の命を奪っているということにもなり、初陣では地面に吐いていたことを思い出す。これが慣れることは後にも先にもない。
嗚咽を洩らしながら、近付いて来る敵の一人を沈めた。
「(10…11人…)」
今日、自分が奪った命の数を心に刻みながら、グ、と手を握って息を吐き、安堵した。
―――その時だった。
「背中ががら空きだぞ」
「ッ!!」
右手のトンファーナイフを咄嗟に後ろに振るった。が、それはいとも容易く受け止められ、もう一打、と左手のトンファーナイフを繰り返し振るった。
だが、それも受け止められ、後退のために地面を蹴った。
「術を使う前衛に、まさか距離を取らせるとでも?」
「!?」
離れた分だけ距離を詰めるその動きに無駄がなく、その差はあっという間にゼロになり、不意にさくらの喉に黒い爪が食い込んだ。
「はぐっ…!?」
ギュ、と目を瞑ったさくらは死ぬ準備ができていなかった。
何が起こるかわからない戦場で、安堵したらそこで終わりであるのに。それが今になって身に染み、目の奥が熱くなり、彼女の目から雨と共に涙が流れていく。
その姿を見て、目の前の男は口角を上げた。
「泣いている暇があるなら足掻いてみせろ」
「!」
よく聞けば、その声には覚えがあり目を見開いた。
その眼に移るオレンジ色の目はさくらを嘲笑うようにニタニタと笑っていた。