第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
「届かない!!」
「おら」
「う、わ!?あいだああ!!?」
さくらの足と足の間に頭を突っ込み立ち上がったエンカクは普通に肩車をするつもりだった。が、倉庫の天井はそれほど高くなく、さくらはコンクリートの硬い板に脳天をぶつけることになった。
思ってもいなかったそのトラブルと、悶える声にエンカクは思いきり吹き出した。
「ぷ、はははっ!!馬鹿だな、お前は!!」
「ば、馬鹿はどっちだよ!!あぁ…行き成り上げないで下さいよ…うっ…いってー…絶対頭蓋骨割れた…」
「クク…嘆くのは後だ。さっさと出ろ」
「うんー…」
すぐ目の前にある窓に上半身をひっかけ、よじ登る。首から体が浮いたところでエンカクは身を引いて、バタバタと暴れるその姿を滑稽だと笑いながら見ていた。
すると急に両足がダラン、と力を無くしてしまった。
「…おい?」
「は、挟まった…!」
「はあ?」
「挟まったのー!!」
窓が小さすぎたのか、さくらの体がふとましいせいなのか。どちらかは定かではないように見える。
今日一番の大きなため息を吐いたエンカクは、片手で顔を覆ってからそのつっかえている尻を見る。
…後者だろうか、と思いながら両手でその尻を押した。
「うひっ!?な、何してるんですか!!」
「押してやってるんだろう。さっさと出ろ」
「さ、触り方がいやらしいですよ変態!!」
「やかましい!ずっと色気ないパンツ見せられてるこっちの身にもなれ!!」
「な、何だとコラああああ!!」
「いっ…てえな!!顔蹴るな!!さっさと抜け出せこの痴女!!」
「誰が痴女だあああ!!」
言い合うこと数分。ここでやっとさくらの下半身がスポン、と抜け、外へと抜け出した。
途端にその穴を通ってエンカクがすんなりと抜け出す。
頬を撫でる外の風と、彼女とは違いすんなり出られたことへの優越感で気を良くしたエンカクは未だ座り込むさくらを見下ろした。
「おいさっさと部屋に帰れよ。見つかったらまた閉じ込めら………!おい」
「あ、え…?」
エンカクは膝を追って屈み、さくらの両肩を掴んだ。
その額から流れるのは尋常じゃないほどの血。目の上にも流れ、それは頬を伝い、顎からポタポタと地面に垂れていた。