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【アクナイ】滑稽でも君が好き【短編】

第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】



「さっき切ったのか」

「…エンカクさんのせいじゃん…」

「そこから出してやっただろう」

「お尻揉んだくせに。よいしょっと…」

「囀るな。とっとと治療してもらうんだな。……おい」


立ち上がったさくらの体がフラリと揺らぐ。咄嗟に受け止めた彼は、瞬時にもう一人で医療部門に行ける体ではないことを悟る。長い間戦っていれば相手を見るだけで体調の一つや二つ見抜けられるようになっていた。


「はぁぁぁ…お前のような軟弱かつ色気ない女は初めてだ…」

「何だ、とぉおおう!?」


盛大な溜息を吐いたエンカクは、さくらの体をひょい、と横抱きにする。そのまま倉庫の二階部分に当たる屋根から次は近くのコンテナへ、トントントン、と走りながら移っていく。

その様子を下から見るさくらは、あまりの映える顔面に見惚れてじっと先を見据えるオレンジ色の目を見ていた。

そんな目と、不意に目が合う。


「あ?何を見てる?」

「いやホント黙ってたらかっこいいなって、あ、あ、おおお落とそうとしないで!!ご、ごめん!!ごめんなさいってば!!死んじゃいます!!」

「はぁ…本当に弱いな…受け身ぐらい取れるようになれ」

「痛いの嫌なんですもん」

「戦っていれば痛みなんてもんは気にならなくなる。それより目の前にいる敵をどう屈服させられるかで頭がいっぱいになるからな…」


人生で一番滾る戦闘を思いだしたのか、口角が上がる。その様子にさくらは引きつった顔で見た。


「うわぁ…変態ですね…ぁああああ!?ごめんなさい落とそうとしないでください!!」

「お前にだけは言われたくない。…はぁ、あまり興奮して喋るな。血流が良くなるだろう。さらに血が出るぞ」

「…君みたいなイケメン目の前にして興奮しない女いないと思いますよ…」

「ハッ。今更世辞を言われてもな」

「別に世辞じゃないんだよなー」


ヘッ、と嘲笑うさくらの顔を一瞥したエンカクは、呆れてくるりと目を回し、最後のコンテナを下りた。その時になるべくさくらに衝撃が来ないように膝を曲げる辺り気遣っているようだ。


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