第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
ガシャン、と閉じた鉄の扉を睨むこと数分。
決して広くない倉庫の端にそれぞれ座った二人は膨れっ面で壁の方を見ている。
「最悪」
「お前のせいだぞ」
「人のせいにしないでください」
二人が鉄の扉を蹴破って脱走しないのは、物を壊せば必ずドクターに何か言われると分かっているからだ。これ以上の反省をさせられるだろう。
しかし、真上にある太陽が沈むのを待っていられるほど二人は気が長くない。一番先に立ち上がったのはさくらだった。
「ん、しょっと」
「何してるんだ」
「脱走」
そう言って2メートルはあるだろう人が一人やっと通れるぐらいの小さな窓に手を伸ばし始めた。
だが、身長とその身体能力の低さで、その場で跳躍しても届きそうにない。
エンカクはその惨めな姿を見てクツクツ、と嘲笑う。
「届いてないぞ」
「うっ…さいなっ!じゃあ手伝ってくださいよ!!」
「じゃあ頭下げて頼んでみろよ。見ててやる」
「ッ…じゃあいいです!」
意固地なその姿はエンカクに背を向けるとまたピョンピョン、とその場で跳ね始める。
その反動で揺れるスカートが目に入る。その隙間からあざとく見えるそれに、エンカクは大きな溜息を吐いて言った。
「パンツ見えてるぞ」
「発情すんなよ!」
「ぁあ!?誰がこのちんちくりんに発情するか!」
さくらの動揺する姿を想像していたエンカクは、動揺するどころかこちらが動揺させられて苦い顔を浮かべる。
一枚上手とは言いたいが、やられっぱなしも癪だった彼は、徐に立ち上がってその背中に近付いた。