第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
「もうやめないか、二人とも…仲良いのはわかったから…」
「「良くない!!!」」
「ぷふっ」
揃いも揃ってそう否定したその姿にススーロが笑う。その様子に気にも留めず、まだ言い合う二人に、ドクターはそっとイグゼキュターの肩を叩き、新規命令を出した。
「イグゼキュター」
「はい」
「止めてくれ…」
「任務了解。実行します」
巨体が動き出し、掴みかかっている二人の間に割って入った。それだけで言い合いは止まり、二人はイグゼキュターの顔を見る。
「あ、え…い、イグゼさん…?」
その水色の目は、さくらを見据えると無機質に見下ろした。その目を見て怯えて後退する彼女は完全に気圧されている。
「さくら、先程私はやめませんか、と言いました」
「ご、ごめんなさい…」
「拒んだ者がどうなったかご存知ですね?」
「ごめんなさいいいいいいい!!やああああ!!離してええええ!!」
さくらの体はひょい、と浮き、俵を担ぐようにイグゼキュターの肩の上で草臥れる。
その様子を見てクツクツ、と笑うエンカクは楽しそうに尻尾を揺らした。
その姿を冷ややかに光った水色の目は逃さない。
「はは、ざまぁみろ」
「…」
「…は?おい、俺に近付くな。おい、やめろ!」
「命令ですから。失礼します」
「うっ…!?」
190㎝ある体が地面から浮いた。その体を脇に抱え、イグゼキュターはドクターの方を向いた。
「とりあえずB2エリアの倉庫に二人とも放り込んで鍵かけておいてくれ」
「了解」
「はい!?この人が悪いんじゃないですか!!」
「!ッんだと…おい、今すぐ下ろせ。この場で叩き切ってやる…!!」
離れても反省する気のない二人にドクターはまた溜息を吐いた。
「お前たち、そういうところだぞ…イグゼキュター。武器も取り上げといてくれ…」
「了解。任務を続行します」
ギャーギャーと言い合いながらデッキから退出していく二人にもう一度深い安堵の溜息を吐いた。
「エンカクが声を荒らげるのは珍しいな…仲良くやってるようで何よりだが…あぁぁ…この芝生どうするんだ…」
「頑張って、ドクター」
キュウ、と胃が痛くなって膝をつくドクターの足元の人工芝は茶色に焦げ果てていた。
この後、彼に待っているのはドーベルマンの折檻だ。