第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
「痛いですよー」
そう言ったら必死な形相で睨んできた。一見威圧を出していて怖いとも取れる笑顔を浮かべているが、その頬には冷や汗が流れているせいで少しも怖くない。
「絶対に言うな。まだ死にたくはないだろう?」
「私を殺したらドクターが黙ってないと思いますがね!」
「ふうん…お前がこのロドスに多大な影響を与えるのはわかったが…口を割りたくなくなるように再起不能になるまで精神を壊すことはできるんだぞ?」
「怖いなぁ」
クツクツ、と笑いながらポケットに突っ込んでいた手を出して胸の前でそれをギュ、と握りしめた。
「私を脅そうたってそうはいきませんよ?エンカクさん」
「何…?」
「これなーんだ?」
手の中から出して、目の前でチラつかせる。オレンジ色の瞳孔が縮まったため、これが何だかすぐに分かったようだ。
追撃するように、目の前に出したその機器についているボタンを押した。すると、先程エンカクが言った言葉がそのまま機器から発せられる。
ドクターにもしものことがあれば、と渡されたボイスレコーダーだ。
「<<口を割りたくなくなるように再起不能になるまで精神を壊すことはできるんだぞ?>>」
「これって脅迫ですよね?エンカクさん!ドクターに言っちゃいますよ?」
「…お前、俺を脅すのか?この俺を?」
再び目の色が変わった。それは殺意の目に似ている。が、恐怖を覚えないのはきっとさっきの愛嬌ある姿を見たせいだと思う。
その姿に笑い、ボイスレコーダーを彼の胸に押し付けた。
「冗談ですよ!ちょっとからかっただけです。ドクターが怖がる貴方がどんな人か知りたくて。つい!」
「…この変態が」
「変態違いますー!さくらっていう名前がありますよろしく!」
「黙れ。もう近寄るな!」
ぐしゃり、と素手でボイスレコーダーを握りつぶして行ってしまった。
笑った自分の顔とは相反して嫌悪で歪む彼の顔は見てて面白い。
今あったことを全てドクターに話したら雷を落とされたわけだが。
何となくいかり肩で歩いて行く彼と、仲良くやっていけそうな気がした。
―――まぁそんな気は、すぐに気のせいだったと身に染みることになるわけだが。