第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
「へ、変態じゃないけど!?」
「俺に得物を向けられてもまだ減らず口を叩くその精神は大したもんだ。図太い…いや…ただの馬鹿なのか…?…やはり気持ち悪いな…」
「罵詈雑言の数々!!」
「もう一度聞く。何故付きまとう?」
「お、同じ答えしか言えませんけど…」
「…違うな」
ズンズン、と長い足を動かしてこちらに来たエンカクは、初対面の時のように私の顎を捉え、ク、と上に上げた。
だが最初と違うのは、まるでキスをする一歩手前のような近さだということ。目と鼻の先にあの目が噛みついて離さない。
自然と顔に熱がこもる。
「お前…俺に構って欲しくてこんなことをしているのか?」
「は?」
「確かに今までいたにはいたが…お前のような執着心を持った奴は初めてだ」
「い、いや何の話…っ!?」
急に肩を掴まれて、すぐそこの壁に押し付けられる。壁が薄いのか、それとも力が強いのか。廊下にダン、という大きな音が響いた。掴まれている肩が痛いので後者だろう。
「俺に抱いて欲しいんだろう?」
「は?」
思わず素っ頓狂な声が出たが、目の前の男はそれに気付かず続けて言う。
「はぁ、わかったからもう二度と俺の前に現れるなよ」
「えーっと、ごめんなさい。興味ないです…」
「は?」
今度はエンカクが丸々と目を見開いて素っ頓狂な声を出す番となった。
さっきまで殺意を放っていたその顔が驚きに染まったのも珍しい。…いや、羞恥心だ。
「…何顔赤らめてるんですか?勘違いしたからですか?」
そう聞けば、仄かに赤くなっていた頬が思いきり赤く色づいてしまう。それは図星と言ってもいいほどに。
「ちっ…違う…!」
「あはは!そんな顔して意外と可愛いんですねえ~?」
「煩いっ!!」
「ドクターに言っちゃおー!!」
「おい待てコラ!!」
走りだそうとしたら後ろから肩を掴まれた。同じところをさっきより強い力で、だ。