第6章 砥石が切れたみたいだから【エンカク】
ロドスの甲板に彼はいた。
その場に寝転び、優雅なお昼過ぎの時間を過ごしているようだ。
その頭元に立つと、その整った顔を見下ろした。
「こんにちは、エンカクさん!良い天気ですね!」
「失せろ」
低い声で威嚇された。ビリ、とその威圧感が肌に伝わる。思わず一歩引いたが、負けないとばかりに言った。
「仲良くなりに来ました!」
「聞こえていたか?失せろと言ったんだ。それともなんだ?砥石になりに来たのか?」
「私の体についた無駄な脂肪は君の剣を鈍らせるよ?それでもいいならいいけど?」
「もういい喋るな失せろ視界に入るな消えろ」
「一度にめっちゃ言われた!!」
そう喚けば、煩わしそうに眉間に溝を掘った彼が今やっと瞼を開いた。
オレンジ色の瞳はこれでもかと睨視し、盛大な溜息を吐きながら素早く起き上がって私の横を通って甲板から出ようとする。その後ろをついて行く。
「エンカクさんエンカクさん。貴方が私の事を嫌いだとか苦手だとか言うから追い詰めてるんですよ。何でかなーって思っ……うわっ」
あと一歩、余所見をしていたり、瞬きをしてあと一歩進んでいたらいつのまにか向けられていた刀が喉に刺さっていただろう。
剣士らしい、低く姿勢を保った刀の構え方で私を睨んでいる。
「お前…何だ?何故俺に構う。アイツの差し金か?」
「アイツって…ドクターの事ですか?いやいや、理由はさっきも言った通り、貴方が私の事を毛嫌いしてるから何でかなーって思って。ほら、気になる子をいじめる子供みたいな感じです!」
そうガッツポーズを取って言うと、シン、とその場が静まり返った。
とても気まずい空気を味わったまま、じっとオレンジ色の目を見つめていると、ス、と剣先が引いて腰の鞘に直しながらやっと口を開いた。
「…お前」
「はい?」
「変態か?」
「ぶふっ」
低い声で、しかもそんなしかめっ面でそう言われたらそりゃあ誰でも吹くと思う。