第5章 リップクリームチャレンジ【アドナキエル&スチュワード】
「い、いいいい嫌だよ!!」
「なるほど。楽しそう。僕もやろう」
「ちょっとスチュワードまで!?」
どれにしようかなーと右隣で悩むスチュワードを尻目に、左隣のアドナキエルがさっきから服を何回も引っ張って楽しそうな笑みを浮かべている。
状況が混沌としてきた、と渋々アドナキエルの顔を見る。
「ん」
目を瞑ってキス顔のまま待機する彼の顔は少し貴重。カメラ機能を持つ端末があれば隠し撮りしていたかもしれない。
「本当にやるのかー…」
「早くっ」
「うわぁ…恥ずかしい…」
端正な顔立ちに近づいて、潤った唇に鼻を近づける。
匂いは、しない。
「っ…」
次に恥じらいを覚えながらもそっと少しだけ唇を重ねた。
すぐに身を引いて自分の唇に移ったリップクリームを舐めとる。
感じられたのは甘い、ということだけだった。
「う、わ…あんまわかんない…」
「じゃあもっと。ほら」
「もー恥ずかしいんだってー…」
渋々2回目のキスに入った。今度は少し長く、その柔らかさを堪能するように少し強く押し付けた。
その後すぐに身を引いて舐めとると、今度は沢山ついたようだ。
「…わかった?」
「…パイ、アップルパイ?」
「あ、正解!」
「めっちゃ疲れる!!」
後ろのベッドに倒れようと上半身を傾けたら、そこで止まった。
とん、と硬い胸板が遮る。いつのまにかスチュワードが後ろに来て、足と足の間に私を挟むように座った。
「僕のも当ててみて」
「は、恥ずかしいんだって!」
「早く」
「〜〜〜っもおおお!」
少し体を捻り、後ろを向く。
瞼を下ろしたスチュワードはこれまた端正なキス顔で待機している。この人たちに恥じらいはないのだろうか。
その肩を握り、例によって匂いから嗅いでみる。…少し甘い匂いがする。
「…ん」
ふに、と触れた唇がこちらも柔らかい。と思いながら身を引いた。…時だった。