第5章 リップクリームチャレンジ【アドナキエル&スチュワード】
「最近めっちゃ唇かさつく」
「乾燥してるね、最近」
「俺のリップクリーム使う?」
「うわ女子力たっかい。何か負けた気分だからいい」
茜色に染まるスチュワードの部屋で、私たちはただ時間を貪り食っていた。
今日は非番で、今の今まで三人身を寄せ合って眠っていたのだ。
いい加減起きないと、と提案したのは部屋の主であるスチュワードで、その提案を受け入れ、その日初めて食堂で腹ごしらえを済ませた。
それからまた部屋に戻って、今の現状に至る。
「一回塗ってみて。凄く美味しいよ、これ」
「リップクリームが美味しいって何?」
「あぁ最近カーディの中の流行なんだよね。味と匂い付きのリップクリーム。僕も色々貰ったよ」
そう言ってスチュワードは、枕元の引き出しから何か取り出して、私の膝の上にばらまいた。
それは未開封で、パッケージに入ったままのスティック型リップクリームだった。
「……多いな!?」
「ざっと7種類ぐらい貰った」
「何でそんな貰ったの…」
「興味本位で可愛いねって言うと“じゃあ同じのスチュワードくんにあげるー!”って言っていっぱいくれた」
一つ一つ手に取って見ると、フルーツからスイーツまで様々な色やパッケージに記載されている。
確かにこういうのを見ると少しワクワクするし、集めたくなるのもわかる気がする。
「このシリーズ人気らしいね」
「僕使ったことないからわからないけど」
「美味しいよ?」
「食べるな食べるな」
冷静にツッコミを入れるスチュワードは、ため息を吐いて適当にパッケージを一つ手に取った。
それはどうやらプリン味のようだ。パッケージにもプリンの絵が散りばめられたように描かれている。
「…あ、良いこと思いついた」
「アドナキエルの良いことって悪いことだから黙ろっか」
「まず、リップクリーム塗ってー…」
「聞いて?」
人の話も聞かず、自身が持っていたリップクリームを自分の唇に塗り始めた。
…何だかその様子が妙に色っぽくて腹が立つ。ただ塗っているだけなのに、だ
「できた。はい、さくら!何味のリップクリームか当ててみて!」
「時折知能指数が落ちるよね君…」
「うん?ほら早く!」
「見てもわかんないよ」
「キスとか匂いで当ててもらうんだよ?」
そっと頭を抱えた。