第4章 あの子のことが好きな君を殺す【スチュワード】
「あ…スチュワード…」
尋ねた部屋から顔を出したさくらに、スチュワードはニコリと笑った。その笑顔は弱弱しく、細まった目は赤く腫れている。
さくらには嫌でもわかった。自分のために泣いていたんだと。
「あの、さっきは…ありがとう」
彼の口から出たのは感謝だった。振ったのはこちらであるというのに、とさくらは何度も首を振る。
「さくらの気持ち…わかったよ。でも何だかモヤモヤしたままで…僕の気持ちだけ、聞いてくれないかな…?」
「う、うん…いいよ」
「…はは、ここで暴露しても良いんだけど…恥ずかしいから入れてもらってもいい…?」
「うん、いいよ」
すんなり扉を開いて中へ誘う言葉に甘えてスチュワードは敷居を跨いだ。
歓喜でふりん、と揺れた上機嫌の尻尾に気付かないまま、さくらは彼に背を向けた。
「待って、今お茶淹れ……ッ、スチュワード…?」
その背中に覆いかぶさるように、強く抱き締めた。そしてゆっくりと、口をさくらの耳に近付けて囁く。
「駄目だよ」
「ん…スチュワード…!?」
ピクリ、と跳ねた腰に青紫色の目が嗤う。
「未練タラタラの男を部屋に通して…優しいけど…そうやって無防備なとこが君の甘いとこ。アドナキエルが泣いちゃうね」
「スチュ、ワード…じょ、冗談だよね…?早く、離して…」
「嫌だ。…今からアドナキエルが好きな君を殺すんだから」
「ころ、す…!?」
物騒な言葉に、引き剥がそうとした手や体が硬直したさくらの様子を見たスチュワードがクスクスと笑う。
左腕はしっかりと体を固定したまま、右手でさくらの頭をゆっくりと撫でる。
「大丈夫…アイツが好きな感情だけを殺して…僕のこと、好きにしてあげるだけだよ」
「っ…お願いスチュワード…や、やめて…?」
「どうして?じゃあ何で僕のこと部屋に入れたの?…こうなるって、ちょっとでも予測できたでしょ?…僕だから大丈夫だと思った?…甘すぎだ。…だから、こんなことになるんだろう…」
髪を掻き分けてチュ、と首筋に落としたキスでさくらは両手でスチュワードの左腕を掴んだ。