第4章 あの子のことが好きな君を殺す【スチュワード】
「待って、スチュワード…!こ、ここに…後で、来るから…!」
「アドナキエルが?」
「そ、そう…っはぐ…!?」
ダン、と言う音と共にさくらの体を扉に押し付けた。頬に冷たい扉の質感が伝わる。
その後ろでクスクス、と笑う狐。
「じゃあ、このまま…ここで食べようかな…」
「は…い…?え、や…だって、あ、アドナキエル来るんだよ!?は、早く離して…こんなとこ見られたくない…!!」
「そう言うならもっと抵抗したら?引き剥がそうとして全然力入ってないよ。…僕のこと煽ってるの?」
「ち、ちが…スチュワードの声が、近くて…そ、の…扉に抑えられてるし…」
「抑えてる力はそんなに強くないはずだよ。…ってことは…僕の声、好きなの?」
「っ!!」
スチュワードの声がより一層低くなり、さくらをからかうように耳元でそう言った。
またゾクリと下から上まで冷たい何かが通っていく感覚に陥り、思わず右手で口を押えた。
その様子を、ずる賢い狐は見逃さない。
「あれ?…何?僕の声で今「違、う…!」へえ?じゃあ…この声で責めたらどこまで持つかな…」
「スチュワードっ…ホントに…嫌だ…!離して…!!」
「はは…もう僕しか考えられないようにしてあげるよ」
思い出や何もかもを蹴落としてこれを実行したことに後悔はない。
そう思いながら、クスクスと笑う狐の上で変わらない星々が怪しく煌めいた。
fin.