第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
言われた通り鍵をかけ、ベッドにうつ伏せになってスチュワードに借りた本を読んでいた時だった。
「戻りました」
「…うん…ビッシャビシャ」
即座にシャワーを終えることを最優先とした結果、部屋に戻って来た彼の髪は、今まさにバケツを頭から被ったんじゃないかと思うほどに水が滴り落ちていた。
放置していたら、いくら強靭な体であろうと、ウイルスに内部から攻撃されれば風邪にだってなるだろう。
パタン、と本を閉じ、ベッドの上に胡坐を掻いた。
「服濡れますよ。乾かしてあげますから座って」
「…」
渋々、と言ったようにストンとベッドの端までくると私に背中を向ける形で座った。
少し遅かったか、首元のシャツが少し濡れている。
溜息を吐いて、その首にかかっているタオルを手に取り、頭に乗せて丁寧に拭っていく。
触れた髪は、まるで絹の糸のように触り心地が良かった。
「いつもこうなんですか?」
「いえ。私の目の届く範囲にいないと要人警護は務まりません」
「だからって…ここはロドスですし、自分の部屋です。髪拭ってからでも大丈夫でしょう?」
「一瞬の気の緩みを狙っている輩もいます」
「あー…はい…すいませんね、平和な世界の平和な国で生まれたもんで思考がハッピーなんです」
「そうですか」
ボケたはずなのだが、ぶつりと切れた会話に顔が引きつる。会話を続けようとしても彼にとっては無駄、もしくは興味のないことなのだろう。不毛なのでこの先口を開くのは止めた。