第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
「怖ええよ…」
シャワーから戻ったら大男が部屋の出入口を封鎖するように立っていた。
絶妙に部屋の明かりが当たらないところに立っているということと、その白い服装で幽霊にしか見えない。
「あの…シャワー…どうぞ」
「それでは貴方を護衛できませんが」
「わか、わかりました!!じゃあ鍵!鍵かけときますから!はい!ご自分の部屋でシャワー浴びて来てください!!」
押してもビクともしないだろうその体が両手で押しただけで動いた。ということは部屋の鍵を信用するということだろう。
ピシャリ、と扉を閉めて、すぐに鍵をかける。
普段閉めない鍵をかけるのは少し新鮮な気持ちになる。思えば普段からかける癖をつけていた方がいいのか。
うーん、と扉の前で考えていること5分と少し。
コンコンコン、という3回のノックでハッとして鍵を開け、扉を開く。
変わらない大きい天使がそこに居た。
「さくら、相手を確認せず扉を開くのは鍵の意味がありません。開けるにしても常に警戒し、戦闘態勢を取って下さい」
「…うん…2個ツッコませて…まず帰ってくるの早いですよ…?」
「走ってきました」
にしては呼吸一つ乱れていない。はて。この近くに彼の部屋なんてあっただろうか。わからないが、部屋の周りのオペレーターたちには挨拶済みである。彼と挨拶した覚えはないので遠い距離なはずだが。
…まぁいい。
「…あとそのお泊りセットみたいなの何です…?」
脇に抱えられているボストンバッグを指さしながら聞くと、さも当然だろうという風に言った。
「泊まるのですが」
「…5分で来れるなら一回帰ってまた朝にでも…」
「夜は人の気が一番緩む時間帯です。こんな時に何かあれば私は任務失敗という結果を残してしまいます」
「…うん…もう…ごめんね何か…」
気紛れなドクターの気紛れな提案のせいでこうなったのだ。明日は一発あのお気楽な頭に拳を落とさないと気が済まないだろう。保護者?関係ない。私も怒る時は怒るのだ。
「えーっと…じゃあ…鍵かけるので、安心してシャワーどうぞ」
「誰か来ても出ないようにお願いします」
「家主か君は」
まるでこの部屋の主のような言い草である。思わずツッコんでしまった。