第2章 拝啓、ロボットさんへ【イグゼキュター】
夜。人がごった返す食堂にて、一つの視線を毎秒受けながら食事を喉に通していくのは一種の拷問だと思った。
「…あの女性どうしたんですか…」
「貴方がどこかへ行くので置いて行きました」
「アッソウ…」
この人の辞書に恋愛という言葉を刻み込んでやりたい。常識という言葉も一緒に。
同じような速度で平らげていくイグゼキュターは、完全に私に合わせて食べているのだろう。その顔を覗き込んで溜息を吐いた。
「…黙っていれば普通にイケメンなのにな…」
「それも良く言われます」
「遠目で見てる分にはイケメン」
「それも言われます」
「だからもう任務はいいんじゃないかなって思ってます。ラテラーノにお帰り下さい」
「職務の放棄はできません」
カラン、とスプーンを置いた。何を言っても無駄らしい。…最初から分かり切っていたことだが。
「…だって馬鹿らしくないですか?こんな奴守るのって」
「貴方を守るのが私に与えられた任務ですから。例え飛び降りようと、舌を噛み切ろうとしても任務は遂行します」
「うん…想いが重い」
にっこり笑ってそう返す。大きく溜息を吐いて満腹感を背負いながらトレーを持って立ち上がった。…まるで鏡合わせのようにぴったりとくっついてくる。
彼は、いつ私が食事用のナイフで襲われるかわからない、とでも思っているのだろうか。
…優秀な人。ドクターがあれだけ評価する理由がよくわかる。だからこそ、自分のようなろくでない人間を守るには向いていない。
「…明日またドクターに直談判しに行きます。貴方が自由な暮らしを過ごせるように」
「それは何故?」
「24時間でしょう?わかってます?24時間ですよ。便利人間じゃないんですから。そんな任務受けなくていいんですよ」
そう言うと、初めてその言葉を自覚した。
…私が、だ。
「え、任期いつまでですか?部屋まで来ないですよね?」
「ドクターからは何も言われていませんが、時間は24時間と」
「それがどういう意味かご存知ですか!?」
「私は特に問題はありません」
「私に問題があるの!!あぁあ話通じない!!」
そっと頭を抱え、もうどうしようもない。と諦めかけたその時だった。
「あ、さくらちゃん!」
可愛らしい声が私の鼓膜を揺らした。