第1章 ~牛垣武明の場合~
明かりのついた家に帰り、
玄関先で嫁が出迎えてくれる。
「武明さん。
おかえりなさい」
「ただいま。
佑都は?」
「いま、ご飯前にお片付けさせてたところ」
「そうか」
息子に触れる前に
洗面台でしっかり手洗いうがいを済ませる。
なんといっても子供は敏感。
習慣とはいえど、
風邪を引いたりして面倒は起こされたくない。
リビングに顔を出すと、
一人息子の佑都がパタパタと走ってきた。
「パパ~!」
「ただいま、佑都。
元気なのはいいが足音を立てるな。
下に住む人に迷惑がかかるだろう?」
嫁とはできちゃった婚。
結婚してからというもの
共有するものが増え、
この賃貸マンションに移り住んだ。
息子が生まれてから
上の階に住んだのは失敗だったと思いつつ、
窓から見える景色は絶景とは言えないが
家の中では些か落ち着ける空間だ。