第1章 ~牛垣武明の場合~
佑都を寝かしつけ、
ベランダでワインを嗜んでいると
嫁の千恵美が顔を出した。
「濡れた髪で外出たら風邪を引くぞ」
「あら、心配してくれるの?
……私にもワイン、入れてくれない?」
千恵美は持ってきていたグラスを傾け、
俺はワインを注ぎ込む。
濡れた髪と洗い立ての香り。
千恵美はグラスを傾けて薄っすらと微笑む。
「ん~、美味し」
俺は静かに夜景を眺め、一口流し込む。
「ねえ、武明…」
「…なんだ?」
親や子供の前ではさん付け。
二人きりになると呼び捨て。
「もう佑都も大きくなったんだし、
そろそろ考えない?」
「ああ…。あれのことか」
結婚当初から
マイホームを購入したいと口にしていた。
俺も最初は考えた。
妊娠させたときから既に
いくつか内定はあったが大学生という身分。
子どもが生まれたときの行動。
家の中が汚れ、破壊されるという不安。
子どもが大きくなるまでとの条件で、
このマンション生活を選んだというわけだ。