第5章 髪
誰にも負けたくなくて努力して、
良く思われたくて探し求めて、
元から人より恵まれ、
器用だったから
苦労は少なかったかもしれない。
だが、
それらを手にしたとき、
誰かに好きだと言われたり、認められたり、
褒められたしたとき、
苦痛よりも快感の方が上回るはずだ。
「好きだのなんだの褒められるうちは華なんだ。
今から枯らしておくなんてもったいないぞ」
「そ…う、ですね…」
結婚して自分の価値が下がった。
昔はちゃらんぽらんだったが、
今は嫁と授かった息子がいるから
不貞行為で自分の価値を穢すことはしたくない。
そんな檻から逃げたくなって、
男友達と気兼ねなく飲んだり
ユウの家で泣き言や愚痴を吐いたりした。
仕事だけが唯一、
自分の価値を確かめられる。
仕事といっても、
ただやりこなすだけじゃない。
部下に対する思いやりや態度も評価。
外見だってそのうちの一つ。
いくつになったって、
華は華であってほしいから
日陰にいる、角のような陰がある奴を
放っておけなかったのかもしれない。