第42章 モデル
自律神経を整えるカンタンな気功。
気功といっても手足を伸ばしてストレッチをするような動きで"気"なんてものは全く感じない。
けど、アキの呼吸法や動きには凄みがあった。
アキがいうには継続は力なり、とのことだ。
「ユウは話し掛けるたびに身構えるからな」
「えっ」
「俺とは普通にしゃべれるけど、タケと二人きりになったら会話続けんのキツイだろ?人見知りっつーか、言葉を探してたら迷子になって喋れない現状が起きるみたいな」
「…それは、うん」
誤解してほしくないのは竹ちゃんのことは嫌いではない。
アキはそれを分かった風で聞いてくれる。
「絶体絶命のときに急激な進化を迎えるように、日常はゆっくり流れているから焦らなくていい。こんなこと他の奴にいったら卑屈に思われるけど、俺は何をやっても天才的に速い」
「う、うん」
「ユウの良いところは他人を認めることができる。許容できる器の大きい人間なんてそういやしない。どうして?と疑問に思うことはごく自然なこと。否定して受け入れられない人間は差別をはじめる。共感を得て勢力を拡大させる。そこへ弱者と強者が生まれて、小さな場所でいうと家庭や学校の教室なんかが俺たちに当てはまる」
人と人は違うことを考えるから美しい生き物。
だから憧れを持つ。
好きになる。
アキは俺のプラスの面を見つけてくれて、気持ちの広さと強さを教えてくれた。
「俺のこと真似してもいいけど、あんま背中ばかり見てると怪我するからな」
「ご…ごめん…」
「謝ってほしいとかじゃなくて見習う程度にしとけってこと。分かってるとは思うけど念のために言っておく。挫折するのは辛いけど人は乗り越えて成長する。俺も兄貴に何度コテンパンにされたことか…」
「スポーツでって、言ってたもんね」
「ああ。5歳も下の弟に本気出すか?あんときはムキになって兄貴の背中しか見えてなくて、腹立って悔し過ぎて泣きまくってた。視野が狭いって本当にこえー」
いじめを見抜かれたと思ったのだが、アキは周りに思ったことや自分のことを話してくれただけだった。
正直焦った。
でも、アキは気を感じ取ったのかもしれない。
けど敢えては口にしない。
俺のサインに気付いてほしいってことなんだと思う。