第42章 モデル
答えを待っていると少し考えたように口を開いた。
「だって面倒臭いだろ。自分を売らなきゃならない商売なんだ。外出するのも勿論、自分の時間がなくなって芸人という商品だから恋愛も好き勝手できなくなる。そもそも束縛されんのが嫌いなんだ。
高校からちゃんと女作ろうと思ってたのに…」
「え?いま、付き合ってる子いないの…?」
「誰かが噂してたか?それとも自分で言い触らしてたか。言い出したらキリがねえ。俺はまだ誰にも手ェ出しちゃいない」
世間の注目度もあるけど、ちゃんとした彼女が欲しいという理由。
ちゃんとしたっていう言葉が気になるけど、そこは突っ込まないでおこう。
恋愛の話しは正直言って苦手だ。
苦い思い出が蘇ってしまう。
「ユウはいるのか?そーいう奴」
「ううん、いないよ。俺、モテないし」
「可愛いからモテるだろ」
「え?…」
「ん?俺、今なんつった…?」
「…え、っと…」
聞き間違えじゃなかったら「可愛い」って言われた気がする。
可愛いって。
頭の中で繰り返しなぞったら顔がボッと熱くなる。
可愛い…。
俺、男なのに。
いやだから俺は格好いい男でもないし、スポーツ万能なわけでもないから取りあえず落ち着け!!
「可愛いって言われてヤか?」
「えっ、いや…全然…そぅでも…」
動揺して声が裏返ってしまった。
よく女子が男に可愛いっていったり、意味もなく可愛いっていうなんかそういうことだ。
そういうことにして置こう。
「なら良かった…。まあ深い意味はないんだけどな。可愛いっていうのは…愛嬌があるんだよ、おまえって。笑うと可愛いし…な」
「…あ…、あり…がと…?」
ダメだ。
可愛いとか愛嬌があるとか笑うと可愛い…って、心臓がドキドキバクバクしてる。
おかしいけどこれは大丈夫のドキドキ。
うん。
こんな爽やかイケメンから可愛いって言われたら普通誰だってドキドキしちゃうだろ!?
父さんだって女なら惚れてたって言ってたし!!
俺はもう男に惚れない。
あれは間違った恋だった。
自分でもおかしいって思ってた。
俺ひとり本気で錯覚していただけで、周りが……男同士は違うって、あれはちょっと暴力的だったけど気付かせてくれたんだ。