第42章 モデル
(悪いことしちゃったかな…)
本人の乗る気ではなかった芸能界。
もし芸能界に入ったとしたら更に街を歩くのも難しくなる。
本人は慣れたというけれど、一般人と有名人じゃ世間の扱いは変わってくるだろうし、こうやって一緒に並んで歩くのも最後になるかもしれない。
それに、学業両立が難しくなって芸能活動をサポートしてくれる高校に転校したり、もう一生会えなくなることだって…。
「ごめんね、俺のセイで。あんまり気乗りしないコトだったのに…」
「いやいいよ。俺も間近で見たことなかったし勉強になった」
アキは優しい。
全然興味がないはずなのに、あくまで自分の勉強のために見に行ったってことにしてくれている。
「でもすごいね!初めてじゃないんでしょ?親しそうだったし…スカウトマンに声掛けられたの」
「親しくなんてないよ。他にも何社か声掛けられたけど……。また噂をすればなんちゃら」
「あ…」
「奇遇だねー。牛垣くん、お友達とお買い物?」
また大人の人に声を掛けられた。
それが終わったら違う大人の人に来て、何人かの人に囲まれたりして挨拶や名刺だけを渡してあっさり帰っていく。
しつこい勧誘をかと思ったけどそうじゃないらしい。
こんなものなのかと拍子抜けしてしまうくらいに。
「す…すごいね…。1日に何人も…」
「悪いな。俺は全く興味ないんだが」
「ご両親に反対されてるの?」
「反対はされてない。むしろ母親が勝手に写真送ったくらいだ。ばっくれて暫く口聞いてやんなかったけどな」
「お母さんは寧ろ乗る気なんだ…。アキはどうして芸能界に興味ないの?こんなに周りから素質があるって言われてるのに」
「それは…」
頑なに拒否する理由が気になった。
なにも学業だけの問題じゃない気がして、答えてくれるかはぐらかされるかで試しに聞いてみる。