第42章 モデル
移動中、小野寺さんはアキについて聞いてきた。
部活動や授業のこと、友達のこととかどんな風に日常を過ごしているのかと広く浅く。
「あっ…!」
「ちょうど撮影中だね。ここで待っててね。関係者以外立ち入り禁止のところだから」
「は、はい…」
「……」
小野寺さんはスタッフの一人に声を掛けていた。
現場の中で一番偉い人だろうか。
それよか目と鼻の先に津梅さんがいる。
すぐそこで雑誌に載せるための写真撮影の姿。
表情、ポーズ、角度、自分を知り尽くしているように自分を表現している。
「格好良い…」
芸能人オーラで他の人とは違う。
これがファッションモデル。
短時間の撮影が終わって小野寺さんは津梅さんに直接話し掛けており、俺の顔を一瞬みて、アキのことをジッと見つめた後、微笑んだ顔でこちらに歩いてきた。
「初めまして。専属モデルの津梅剣です。いつも応援してくれてありがとね」
「は、はい…っ…!いつも、応援させていただいてますっ!」
初めて芸能人と握手した。
しかもそれが憧れのツヴァイケン。
感動して涙が出てくる。
「ユウくん、サインは?」
「えっ、あっ、サインもらっても良いですか?!」
「構わないよ。ってか慌てないで大丈夫だから」
クスクスと爽やかに笑われる。
手慣れたようにノートにサラッと英語でサインを書いてもらい、名前まで書いてもらってまたも歓喜する。
一生飾っておこう。
俺の一生の思い出だ。
幸せの余韻に浸っていると津梅さんはアキをモデル事務所に誘っており、冷たい態度ではなかったが自分には荷が重すぎると謙虚に断わりの姿勢をみせている。
(津梅さんのいうように、アキならすぐ有名になれそうなのに…)
天性の生まれつきといっても過言ではない容姿。
何でも卒なくこなしているのは学校生活で見てきたことだし、コミュニケーション能力も優れているから第一線ですぐ活躍できそうな気もする。
アキの姿勢はまったく変わらなかった。
撮影現場を離れる際、ペットボトルのお茶を持たされ目的地のショップへと向かうことにした。