第42章 モデル
「最初はいとこの赤ちゃん抱かせてもらったかな。こんなに小さくてめっちゃ可愛かった」
アキが赤ちゃんのことを話すと目がいつになくキラキラしていた。
本当に小さい子が好きなんだと思う。
赤ちゃんも見惚れるほど口をあんぐり開けていたし、アキの赤ちゃんが生まれたら相当可愛い子になりそうだ。
「抱かせてもらう以外にはおむつも替えさせてもらったこともある。お尻を拭いてさ」
「おむつ交換も経験あるの?」
「ミルクもあげたことある。必死に吸ってると思ったら急に寝こけ出して、哺乳瓶離そうとしたら口がまた動きだして、あれはもう死ぬほど可愛かった。ミルクはもう卒業しちゃったけど子供はいつだって可愛いよ」
父親になったアキを想像する。
息子や娘に溺愛する父親像。
溺愛しすぎて子供がいるからと仕事に行けない!と駄々までこねそうだと思い、何だか笑えてきてしまった。
「なにニヤニヤしてる」
「いや、良いお父さんになりそうだなって」
「なりそうじゃなくてなるぞ。嫁になんか全部子供の世話や躾けをやらせるか。男でも育休休業取得できるところに就職して、それを有効活用して子供と戯れる!立って歩けるようになったらお外に出かけてキャッチボールは絶対だ」
「もうそこまで想像しちゃってるんだ」
「高校生でおかしなことだって笑ってるんだろ。授業でも良いから赤ちゃん来ないかなー。抱っこしたい。俺が一生面倒みてやりたい」
女性陣が聞いたらなんて思うだろう。
アキが「子供がほしい」と言えば想像妊娠してしまいそうだ。
それに、あなたの子供です、なんて言われた暁にはどうなってしまうのだろう。
なんてことをホーム内を歩きながら話し、駅を出た。
「久々に街のほう来たかも」
「え?そうなの?」
「いちいち絡まれんの面倒臭くってな。近所で済むこと多かったし、ずっとドッジに明け暮れてたから…」
すると「牛垣く~ん」と呼ぶ声が聞こえてきた。
スーツを着た男の人。
その顔を見た瞬間、アキの顔が厳しくなり定型文の挨拶だけすると振り切るように歩き出してしまった。