第42章 モデル
「失礼。手伝いますよ」
近くの手すりに掴まっていたアキだったが、大変そうだなと思って見て見ぬフリをした俺とは違い、乗り込む際にスマートに手を差し伸べに行ってしまう紳士な対応。
知り合いかと思ったが全くの赤の他人らしく、母親の服を引っ張ってた小さな男の子は口を半開きにして、大きい目を開けてアキを見上げている。
「すみません…ありがとうございます…」
「いえいえ。可愛い赤ちゃんですね。いまおいくつですか?」
「8か月です」
「8か月、すごく元気に育ってますね。むちむちしてる。触ってもいいですか?」
「は、はい」
「あう?」
「あはは。かわいい~」
控えめなトーンを落とした優しい声。
話している母親だけでなく、その様子を盗み見ていた人たちはアキの満面の笑みに胸をキュンっと弾ませ、車内中にぶわっと花が溢れている。
アキの笑顔で世界が平和になりそうな気がする。
母親から離れないように服を掴んでいた男の子にもしゃがんで声を掛けており、いい子いい子されても騒いだりぐずることなくお利口さんだった。
「僕たちはこの駅で降りますので。またね~」
「ばいばーいっ」
「その節は本当にありがとうございました」
俺は何も出来なくて、降りる際にペコッと会釈だけする。
母親とも小さい子とも気軽に話せてしまうなんて、一体全体どういうスペックをしているんだ。
「いやー、赤ちゃんめっちゃ可愛かった!癒される。ユウも赤ちゃんぷにぷにしたかった?」
「ううん。泣かれちゃったら困るし」
「そん時はそん時だよ。今まで赤ちゃん触ったことないの?」
「うん。小さい子ってなに考えているか分からないし、傷付けて怪我させちゃったらと思うと」
児相にいるときもそうだった。
文太くんに年齢層高めとは言われたけど、断トツして保育園や小学生くらいの子供たちが多かった。
はしゃぐ、さわぐ、泣く。
見るのは可愛いけど関わりにくい。
なにかあったら自分が困る。
だから扱い慣れているアキのことが余計に気になってしまった。