第39章 フラット *
主任の虚ろげな表情が分からないまま引っ越し作業を終えて後日、主任の提案でジュエリーショップへ行くことになる。
「すみません。予約をした牛垣ですが」
「ご予約の牛垣様ですね。承っております。どうぞこちらのお部屋にご案内いたします」
専門スタッフに案内された場所は人目を気にすることなく相談できる個室対応であった。
ドギマギする俺に合わせて主任が事前に伝えてくれていたことに胸が熱くなる。
「指のタイプの相性と普段付け慣れていないというお話しでしたので、こちらのリング幅がお勧めになります」
「2.5~3.0mmなら妥当な所だな。オーソドックスは2.5だがフィット感があるのは3.0の方だと思う」
「一番細い2.0mmだとどういった感じなのでしょうか?」
「2.0mmですとやはり変形しやすく、お二方の指を拝見しますと少々バランスが気になったりするかもしれません。
先程は幅広のお話だけしましたが、アームの形状でしたり輝きが少ないブラックダイヤモンドですとさり気なさを演出することもできますよ」
と色々説明を受けたがセンスのない俺が選んでしまっていいのか。
予算とか諸々は主任が動いてくれたが、指輪のデザインなんて全くのNo知識。
「自分の指で迷うなら俺の指を見て合わせてもいいぞ。例えば同じ2.5mmでも甲丸、平打ち、どっちの方が俺に似合う?」
「あ…。こっちの方が断然男らしさを感じます」
「ならこれはどうだ?」
迷う俺に自分の指を広げ、見方が変わってイメージ像がだんだん広がっていく。
主任に似合う指輪を選ぶことで自分の付けたい指輪が完成に近づく。
あまり気にしないようにしていたが主任の横顔からは、どこか思い耽ったような表情を時折零していたのだった。