第39章 フラット *
ユウさんの家に報告しに行った後から主任は時折、どこか魂が抜け落ちた顔をするようになった。
当の本人はいつも通り過ごしているつもりであっても長い時間一緒に過ごしていると見えてくるモノや感じるモノがあった。
「この物件で決まりにするぞ。明日、実家に帰って保証人のお願いしてくる」
「あの今更なんですけど入居者、男ってマズいんじゃ…」
「そうか?もう書いちまったしやましいことは何もない。男同士がダメだと反論されても覆す自信がある。ほかに何かあるのか?」
その自信はどこから湧き出てくるのだ。
ただでさえ自分がゲイで小さく生きてきたのに主任のおかげでネガティブだった気持ちもポジティブな考えに引っ張られることが多くなった気がする。
「何も、ないです」
「だとしても自分から親に話すつもりはない。聞いてきたら話すつもりだ」
「それはその方が絶対に良いと思います。会社の人達は俺がゲイだって理解してくれましたけど、アキさんはそうじゃないですし…」
あの一斉メールで俺は周囲にゲイだとバレてしまったが主任と付き合っていることは口外していない。
知っているのは主任が報告しに行ったという親友のユウさんだけのはず。
「あのな。俺も湊に惚れた時点でバイセクシャルだったんだ。男と付き合ってやましい気持ちはないが厄介ごと最小限に抑えたい」
「それはごもっともです。俺の言い方が悪かったです。すみません…」
「いや…、俺の方こそ悪かった。男と付き合う上での障害は軽んじちゃいない。こんな事っていうのもアレだが言い争いはしたくないんだ」
「俺も同じ気持ちです」
一緒にいたい気持ちだけじゃダメなことは分かってる。
俺はそれらを切り捨ててきた。
だから海外へ逃げようとそういう決断に至った。
でも主任の周りにはたくさんの人がいるから俺のように生きられないということは十分に承知していたはずだ。