第39章 フラット *
本名である牛垣武明から牛垣秋彦に変わった由来。
「活動するにあたってプロダクションのマネージャーの勧めでいくつか候補を出されたんだ。俺に目を付けた時からずっと考えてたって言われて。けどそれが全部爽やか系路線の名前で一度全部蹴ったんだよ」
「すごいですね…。気に食わなかったんですか?」
「爽やかなのは、って拒否ったら売れる名前がどったらこったら言われて。武明(たけあき)って和風なイメージあるだろ?」
「はい」
「俺の兄貴が貴大(たかひろ)、親父が明貴(あきたか)って書いて、親父から漢字もらってるんだ。お袋が親父のことが好き過ぎて子供にも付けるって…。まあ、これはほっといて」
「ほっとくんですか…」
「俺のあだ名が"アキ"だったからさ。とにかくその発音入れてくれって再度お願いしたんだ。それで秋彦になった。明るい"明"じゃなくて春夏秋冬の"秋"…清涼や色づき、哀愁さ。"彦"は和風、帝っぽさを出したんだと。七夕生まれじゃないのに彦星の別名、牽牛星から降りてきたって牛文字繋がりで案外気に入ってる」
「そんな深いこだわりがあったんですね…」
プロダクションも長年温めていた名前を本人に拒否られて相当ショックを受けただろうに。
秋のイメージと帝っぽさ。
いまどきの若手俳優なら爽やか路線は外せない所だが、主任はその美貌と揺るぎない精神力で第一線で活躍しており、新しい風を吹かせたといっても過言ではない功績を残した人だ。
「大卒で辞めるって事務所はすぐ納得してくれたんですか?」
「もともと学業優先にしてくれと契約時にも通してたからな。それにモデル系列は大卒で辞める人達が多いのもあって、理解が全くないワケじゃなかった。俺的に一番大変だったのが恋愛禁止じゃないのに関係者と世間のイメージダウンするからって立ち塞がられたことだ」
主任は苦い思い出を語るように半笑いになった。