第39章 フラット *
主任は1週間ほどで家が空くと言っていたが、ここに泊まるとの連絡がきて驚く。
「言わなきゃダメだよな…。言いたくないけど」
顔に出づらい主任。
家庭のことは主任の生活や思い出の中に深く根付いており、口では佑都くんのことを出して重い雰囲気にはならないが主任は傷付いている。
何を話しても佑都くんのことが出てしまう。
気を付けていても佑都くんと関連してしまい気にし過ぎなのかと分からなくなってしまう。
「湊。どっちの家に住みたいか決まった?」
候補は二つに絞られた。
どちらも俺が住む築十数年のマンションの家賃と比べ、数倍以上の価格。
主任の給料と比べたら少ないだろうけど、芸能人だからそれだけ蓄えがあるのだろうか。
「生活費の分配が気になるか?今のお前の生活の質に合わせたんだが意見があるなら聞かせてくれ」
「ああいや、俺は全然いいんですけど。芸能人は大変だなって思って…」
「一般人に戻っても世間では顔で商売してたから仕方ない。悪目立ちもしてたし余計にな。人間の愚かさも醜態も知ってるし、芸能界入る前もストーカー被害にあってたから」
「っえ!?大丈夫ですか!?」
「いま普通に生きてるし大丈夫。軽視はしてない。テレビに出てない人だって何かしら巻き込まれてるんだ。自分だけじゃない。俺は男で力も強い。勉強もしてきたから対処も知ってるし、被害者ずらなんて今更過ぎて情けない」
「だけど…」
「長瀬の時は爪が甘かった。だけど頼るべきことは他人に頼れるし、強がって自分一人で出来ないことも知ってる。生きてきてそれを学んできた。意見交換は大事だぞ。これから一緒に生活していくんだ。それでも……千恵美のアレには驚いたけどな。してやられた。女を選ぶ時は多少見たくれもあったが、一番は忠誠心だった。二番目は周囲の友達や家族関係だ。漏れるとしたらソコだからな。
それなのに嘘吐かれて裏切られて…あーあ。俺って見る目なかったのかなって今でも笑える」