第39章 フラット *
一体どれだけの社員が、俺の名前と顔が一致しているのだろう。
主任は大丈夫だって言ってくれた。
皆待ってくれているって。
俺がゲイだと知っても理解してくれる人達がいる。
それだけでも十分幸せなことじゃないか。
「よし。」
社員証を通してエレベーターの前に並び、悪口ではなかったが自分を指す言葉が耳入る。
覚悟はしていたが何をするわけでもないし、そっとしておいて欲しいと思ってしまう。
「…おはよ」
「!……あ、進さん。おはようございます」
「主任から今日来るって聞いてた。顔色よくて安心した」
「ご心配をおかけしました。今後も何かとご迷惑をお掛けするかもしれませんが精一杯務めさせていただきたいと思っています」
「ん」
口数の少ない進さんから挨拶されたのは初めてだった。
エレベーターでも壁側になるように配慮してくれて、さり気ない気遣いに心の中でめいっぱい感謝の意を示す。
主任がああいう人だから想像を超えた攻撃的な人は絡んで来なかった。
陰口が精一杯。
元芸能人の主任の力は偉大だ。
ああいう作品に出ても演技だからと平然と振舞っているし、演技以外の部分でいえば女性問題について触れられても謙虚に上手く同調を得ている。
だから悪い噂は聞かない。
存在が偉大すぎて信者まで作ってしまっている。
そんな主任と俺は離婚してすぐの人と恋人になった。
主任を支えたくて、愛されたくて、一緒にいたいと思ったのだ。