第39章 フラット *
主任は俺よりも早く起き朝食の準備をし、身支度を済ませていた。
「お土産ここに置いておくな。あとはユウに持ってく」
「わざわざすみません。有難く頂きます」
「後片付け頼んだぞ。金曜日の夜からこっちに泊まるから今度は少し遠くに出掛けよう。湊。また会社でな」
「はいっ。…牛垣主任っ…!」
「ん?」
玄関前でキスをしたが最後に主任の匂いを吸い込んでおきたくて、引き締まった硬い胸元に飛び込む。
「ふ…。キスじゃ足らなかった?」
「会社じゃできないから…。充電です」
「可愛いな、おまえ」
主任は朗らかに笑ってぎゅっと抱き締め返してくれる。
子供をあやすように頭も撫でられ、顔がヘンテコにニヤついてしまいそうだ。
「なあ、湊。片付いたら一緒に住まないか?」
「!」
「この家のベッドじゃ狭いし、俺ん家のベッドは嫁が寝たから嫌だろうし。どこかに引っ越して、同棲しないか?」
主任から思わぬ提案をされ、思わず食い気味に聞いてしまう。
主任といて苦になんて思わない。
自分のダメな部分をこれ以上見せたくないという思いもあるけど、既に醜態を晒してしまっている。
一緒に住みたい。
時間を共有したい。
主任にはまだ話してないけど会社を辞めたら毎日会えなくなる。
外ではイチャイチャできないけど家の中でなら触れ合うことも見つめ合うこともできる。
「こだわりなかったら俺が資料持ってきても良いか?知り合いに不動産がいるんだが」
「お願いします。セキュリティの問題もあるでしょうし…」
「そこは分かってもらえて助かる。無神経なやつは何処へ行ってもいるからな。もし嫌がらせ受けたり感じたんなら大小問わず早めに言ってくれ。俺の目の届かない場所まで守り切れん」
「分かりました。気を付けます」
本人だけでなく周囲を攻撃する過激派もいるのだろうか。
人の視線には十分気を付けなければと主任が出て行った後、さらに気を引き締めたのだった。