第39章 フラット *
東京から群馬まで車でおよそ2時間弱で到着。
休日ということもあり子連れやカップル、観光スポットは混雑していたが入浴時は思ったほど人の姿はなかった。
(裸になること考えてなかったけど大丈夫な気がする…)
「おー、山みえる。天候に恵まれて良かったな」
「ホントだ。綺麗に見えますね」
軽く体を洗い流してから肌がツルツルになりそうな白い湯に浸かる。
「ここはぬるめだな」
「主任は全部入って行きますか?」
「いや、そのつもりはなかったが…全部ついてきて欲しいのか?」
「あ、いえ…。そんなつもりは」
「付き合っても良いぞ。時間あわせて単独でもいいし。……あのチビちゃん、お父さんと一緒に来たのかな。それとも爺ちゃんか…」
「え? ああ…。走ったら危ないですよね」
「まだ2~3歳だろ。マジで親どこだ?」
小さい子をほっとけないと立ち上がった主任は辺りを見回しながら、湯船に近付いてきた女の子に話しかけている。
主任は子供の扱いに慣れている様子だった。
ただでさえ小さい子に話し掛けるのは勇気がいる。
不審者だと思われて泣かれたり、兎に角どうやって扱っていいのか分からないのに。
「ここまで一緒に来たのか…。パパ、どこにいるか分かる?」
「わかんない」
「パパの場所、分かんないか」
「でもね。ユイね。ひとりでおふろ はいれるよ」
「ユイちゃんまって。入る前に体にお湯かけた?」
「ううん。おゆ かけてないよ。なんで?」
「お風呂に入る前に体にお湯をかけるっていうマナーがあってね。体についた汚れを落としたり、お湯の温度に慣れたりするために掛け湯っていうことをするんだ」
「ユイ、入っちゃだめなの?」
「掛け湯をするから大丈夫。おじさんちょっと桶持ってくるからここで待っててね」
「うん。ここでまってるね」
「よし。ユイちゃんはいい子だな」
主任は子供を躾けるのが上手だ。
俺は遠くから見守るだけだったがユイちゃんという女の子は言い付けを守っており、主任が桶を持って戻ってくると懐いたようにパッと笑顔になっていた。