第38章 轍 *
もう一度名前を呼ばれるとハーフパンツに手が掛けられる。
「っや、だめ…、だめだって…」
求められたいのに同時に味わった恐怖を思い出した。
また拒絶させられる。
そしたら二度と立ち直れなくなる。
「おまえが好きだ、湊」
それなのに主任は熱を持った想いを伝えてきて、畳み掛けてくる。
「だめ…っ…、期待しちゃうから…だめ…っ」
恐くて逃げだしたい。
主任は優しいキスをして、強引に指を引っ掛け下着ごとハーフパンツを脱がされる。
「湊…おまえのことが好きなんだ。だから、最後まで抱きたい…っ…」
「だ、め…っ…、見たら、また…っ…んぅ」
これ以上幻滅されたくない。
主任は道を踏み外すべきではない。
離婚してもまた女性とやり直せばいい。
それができる人なんだ。
間違っても白い目を向けられるゲイになってはいけない。
「傷付けて悪かった。けどもう大丈夫。おまえの裸思い出して…、慰めたから」
「っ…」
緩んだ手の隙間から直接擦られていく。
間違っているって分かっているのに止められない。
この気持ちは何に捧げればいい。
愛されたいと願う自分の為か。
守りたい、救いたいと思う主任の為か。
深く絡みつく前に断れば引き返すことはできたのに、俺は、そうすることが出来なかった。