第38章 轍 *
車の中は異様に静かだった。
それは主任が無口になったから。
夕食の材料はないのにあるモノで作ると言われ、冷蔵庫に本当に何も入ってないのにどうでも良くなった。
(どうしよう…。俺……馬鹿な期待してる)
帰る場所がない主任を家に泊める。
あの狭い家に二人で寝る。
軽い気持ちで頷いたわけじゃないけど深く考えなかったせいで中途半端な期待が増幅していく。
脳裏にあるのは今週にあてられた熱。
ラブホテルに呼び出されて押し倒され、艶めかしく何度も唇を貪られたあの感触。
(また過ちを繰り返して、いい加減学習しろよ…っ)
玄関の鍵が閉まると同時にキスされた。
熱い抱擁。
肩や腰を愛撫され欲情させられる。
無駄な考えも足掻きもすべてどうでも良くなるくらい頭の中が掻き回される。
「はぁ…。しゅに…、ここじゃ…ヤ…」
帰したくない。
帰って欲しくない。
主任が錯乱しているのは承知しているが欲情している主任を感じると、自分が何とかできるんじゃないかって勝手にそう思わせる。
「先に…風呂、入るか…。汗、たくさん掻いたしな」
「んぅ…」
舐めるようなキスに腰がビクンと跳ねる。
脱衣所に移動して唇を押し重ねられながら裾を持ち上げられ、脱ぐ時間も楽しむように性欲を煽るような服の脱がせ方。
「っぁ、主任…っ…、汗…」
「俺も汗かいてる。イヤか…?」
「うぅん…。主任のは…身体…熱くなっちゃって…っ…」
「俺もおんなじ。湊の汗の匂いを嗅いで、興奮してる」
「はぁ…っ」
お互いの匂いを嗅ぎ合って性的興奮を覚える。
主任の高貴の香りは麻薬のようだ。
首筋に顔を埋められ、また欲しかった唇が戻ってくると真剣な眼差しが射貫いてきた。