第38章 轍 *
一人じゃ掻けない汗と楽しさを味わい、主任の車に戻ると…
「夕食…、一緒に食べないか?」
とまた誘われてしまう。
しかし主任は家に待つ家族がいる。
既婚者だから安心していたのに主任は嫁に騙されて離婚すると衝撃の事実を打ち明けてきた。
(もしかして佑都くんの名前を出した時、浮かない顔をしてたのって……)
一人息子である佑都のことを主任はなによりも可愛がっていた。
愛情を注いでいた。
自慢していた。
俺のよけいな一言でDNA鑑定をしたせいで家庭崩壊を招いてしまった。
親子否定 0%……佑都くんの種子は赤の他人の子。
主任は信じていたから千恵美さんというお嫁さんと結婚した。
子供のために芸能界を引退した。
定時に帰宅して、家族サービスをして、子供に本を読み聞かせたり一緒にカレーを作ったり色んな所に遊びまわったりしていた。
そんな幸せの家族図を俺が破壊した。
「おまえは気付かせてくれたんだ。出産前にもその後でも調べる機会はいつでもあった。…よかったよ。嘘つきの嫁と一生涯尽くさなくって…」
本心なのだろうか。
それで良いのだろうか。
こんなに呆気なく崩壊するものなのか。
信頼していたこそ裏切られた悲しみは大きく膨れ上がる。
そういう…ことなのだろうか。
「家に泊めてくれないか?」
「っ…」
主任が苦しいなら癒してあげたい。
俺に出来ることならなんだってしてあげたい。
俺で良いのか。
俺に出来るのか。
俺は必要とされているのか。
利用されているのか。
それでも主任を拒絶することが出来ず、考えることをやめて頷いた。